反面教師としての『ドラえもん』(その3)
藤子・F・不二雄『ドラえもん』「ぼく、桃太郎のなんなのさ」 鬼退治に来たはずのドラえもんたちは意外な真実を知る。
(承前)「桃太郎」に題材を得た創作作品は昔から数限りなくあるが、実は鬼のほうが被害者であり、村人のほうが狭量陰険な加害者であったなどという発想を持ち込んだ人は他にいただろうか。『ドラえもん』の「ぼく、桃太郎のなんなのさ」は、まぎれもなく藤子・F・不二雄先生が不世出の大天才であることの証となる作品である。
しかしその天才の輝きが大長編において発揮されたことはただの一度もなかった。
大長編ではだいたい中盤になって「いいもん」と「悪いもん」が出てくる。そして悪いもんをやっつける話になる。しかしその悪いもんは本当に悪い人たちなのか? 彼らは一体どのような出自を持ち、どのような理念に基づいて行動しているのか、何も明らかにならない。たいていの場合、いいもんの方がドラえもんたちに先に接触する。「○○人は悪いやつらなんだ」「○○人さえやっつければ、世の中に平和が取り戻されるんだ」。ドラえもんたちはその言い分を鵜呑みにし、○○人をやっつけ、最後は英雄気取りで元の日常生活へと戻ってゆく。本当にそれで平和が戻ったのかどうか、確認することもなく。
それは子ども向け作品としては正しい態度である。
その点、スーパー戦隊や仮面ライダーのほうが異常なのかもしれない。
もちろん、『ドラえもん』みたいな話がないわけではない。しかしそんな作品を作れば必ず批判される。「どうせ子ども向けなんだから」という擁護は通用しない。むしろ、子ども向けだからこそ疎かにするなと言われるくらいだ。戦隊シリーズでは、悪役というものを登場させる時、なぜ彼らが悪なのか、具体的にどのような悪いことをしているのかについての説明を省くことなど絶対にあってはならないことである。少なくとも建前では。それをやれば、単に正義の名を借りて強い奴が弱い奴をやっつけるだけの話になってしまうからである。
同じ子ども向け作品でありながら、この差は一体どこから出てくるのだろう。
結局は、藤子・F・不二雄という天才をもってしても、戦後日本の絶対平和主義という枠組みから逃れることはできなかったということなのだろうか。なんか話がどんどん大きくなってきた。まとまるんだろうか。(続く)
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