ガス抜き、時代劇、特撮ヒーロー(後編)
(承前) 子供は、誰もが自分の目の前に無限の可能性が開かれていると思う(まあ例外もあろうが)。
そして大人への階段を一歩一歩上るにつれて、世の中というのは理想通りにはならないということを思い知っていく。
世の中にはびこる不正や悪を、正義のヒーローがばったばったと撫で斬りにするような番組の持つ意味も、大人向けと子供向けとでは意味が大きく違うはずだ。大人は、正義のヒーローなどというものが現実に存在なんかするはずがないということを知り尽くしている。だからそれは世の中の不満に対するガス抜きとして機能する。松田定次監督が東映時代劇について語っていたように。だが、そんな時代劇をルーツとして生まれたはずの東映特撮ヒーロー物は、子どもたちに対して、不正や悪に立ち向かい、それと戦う勇気を与える番組へと変質した。そう考えると胸が熱くなってくる。
宮内洋氏の言うように、ヒーロー番組は教育番組である。
ただ特撮ヒーロー番組は、大人が作って子供が見るというところに注意を要する。仮面ライダーにしろスーパー戦隊にしろ、圧倒的な強さを持つヒーローは、なぜそんな圧倒的な強さを持つに至ったのか、リアリティがあるように描かなければならない。そんなことを、子供の心を忘れた大人が作るとうっかり省略してしまう。そして大して努力もせずも大して才能もなさそうな普通のあんちゃんが、強くなりたいなあと願っただけで強くなるようなヒーローを出したりなんかしたりすると、かつての時代劇の世界にあっという間に先祖返りだ。
ヒーロー番組を見て正義や理想に対する憧れを植え付けられた子どもたちも、やがては大人になれば忘れる。どうせ忘れるんだから、深く考える必要はないんじゃないの、という意見もあるだろう。本当にそうだろうか。いったん身につけその後忘れる、そういうプロセスをちゃんと経由しないと、現実とフィクションの区別もちゃんとつかない大人になったりしないだろうか。そういえば政治の世界でもやたら「守旧派」だの「抵抗勢力」だの「既得権益層」だのと、自分に敵対する勢力にレッテル貼りをし、あたかも悪代官を成敗するヒーローみたいなノリを持ち込む手法が横行している。となると正義のヒーローにリアリティを感じる子供vs.感じない大人、という対立の図式も単純化しすぎただろうか。本格的に論じ出したら大論文になりそうな気がする。
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