マルクス主義vs.『ONE PIECE』(中篇)
前篇の続き
わかっている。わかってないって。
ぼくはとってもいま野暮なことを書いていると。
「人間はウルトラマンのように変身できないのに、突然力を得られるような幻想をあおりたててきたのが『ウルトラマン』シリーズだ」という批判がどれほどみっともないことかは重々承知だ。
紙屋氏の「なぜ『ONE PIECE』はつまらないのか?」の続き。どうも氏は『ウルトラマン』について、視聴者がウルトラマンに感情移入して見るドラマだと思い込んでいるらしい。あんな身長40メートルの巨人にどうやって感情移入するのか。マンガオタクが見てもいないくせに特撮のことを見下して適当なことを言うのは今に始まったことではないし、その差別意識を指摘するのもそれこそ「野暮なこと」だから深入りしない。
『ウルトラマン』を筆頭に、特撮ヒーロー物の持っている構造が「神話」であることについては今さら詳しく述べる必要もあるまい。ウルトラマンや怪獣といった「神々」の戦いを、地べたに這いつくばりながらただ仰ぎ見るだけの人間、という構図である。スーパー戦隊シリーズは人間が戦っているではないかと言われそうだが、あれも「天命を受けた人間」であって、構造そのものは同じである。そしてその「神」だの「天」だのといった「非科学的」な概念を放逐することによって、我々が生きているこの近代社会は成立している。(そしてその近代社会を成り立たせる原理をもっとも科学的に解明しているのがマルクス主義である。)
だから、子供がああいうものを好むのは、子供が未熟だからである。近代社会の一員としての教育をまだ十分受けていないから、非科学的・非合理的な世界観を持った作品を好むのである。
子供向けに大ヒットしているマンガやテレビ番組を、大人が見て何が面白いのか全然分からないと思ったとき、奇妙な不安を覚えることがある。どうせ子供の見る幼稚なものだと無視しても一向に構わないにもかかわらず。理由は、そこにあるのが子供と大人の対立であると同時に、前近代と近代の対立でもあるからだ。我々は今現実に近代という時代を生きているわけだし、近代の価値観の下で思考をし、言葉を使い、近代特有の「自由」だとか「人権」だとかいう諸概念に寄りかかって生活を営んでいる。前近代など価値のないものとして我々が捨て去ったはずのものだ。それが不気味な魅力を秘めていることを、我々が改めて思い知らされるからだ。そして、近代が前近代よりすぐれていると我々が思い込んでいる常識に、揺さぶりをかけてくるのである。
前篇で私は、紙屋氏が論争に完勝したにもかかわらず、自信なさげな結論に達せざるを得なかったことについて述べたが、以上がその理由である。
だが我々は本当に「神」や「天」といった概念を近代社会から放逐しえたのであろうか?(後篇に続く)
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