小谷野敦の本はなぜ売れるのか(前編)

ウルトラマンがいた時代
小谷野敦『ウルトラマンがいた時代』(KKベストセラーズ、2013年)

 二年前に出た時に、ネットで無茶苦茶叩かれた本である。
 別に小谷野氏をかばう義理は私にはない。当時、この本に加えられた批判の九割は、今から考えても妥当なものである。事実関係は間違いだらけだし、そしてそれを突きつけられた時の筆者の言い逃れや開き直った態度の見苦しさは記憶に新しい。特撮をダシに正義を語ろうとするような本とは一線を画すのだとかいいながら、やってることは単なる自分史をダラダラと書き並べているだけ。何歳の時にレトルトカレーを初めて食べたとか、そんな話がウルトラマンのいた時代を理解するのに一体何の関係があるのだろうか。ウルトラヒロインで誰が誰より美人だとかいう話が延々と続くのに対しては、そんなもんお前の好みだろとしか言いようがない。
 だからといって残りの一割を見過ごしていいわけではない。明らかに過剰な叩きは存在していた。
 「この小谷野という奴は、文学とか歴史とか社会問題とかをテーマにした本を出す際には、決してこのような間違いだらけの本を出そうとは思わなかっただろう。こいつは特撮を他のジャンルに対して明らかに低く見ているのだ。所詮子ども向けの娯楽だと思って馬鹿にしているのだ」という批判が当時あった。だが、小谷野氏は決してそのような人ではない。このことは、氏の名誉のためにも断言しておく。なぜそんなことが言えるのか。この人の、文学とか歴史とか社会問題とかをテーマにした他の本も、似たり寄ったりだからである。そしてアマゾンのレビューなんかを見てみると、「歯に衣着せぬ鋭い舌鋒」「歯切れの良さが痛快」などと褒めたたえ、買う人がいっぱいいる。そのように馬鹿をだまして食い物にするテクニックを自家薬籠中のものとしているのが、小谷野敦という人なのである。
 そしてそのような手口が唯一通用しなかった相手が、特撮ファンだったのだ。(続く

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