反面教師としての『ドラえもん』(その4=完結)
藤子・F・不二雄『ドラえもん』「正義のみかたセルフ仮面」。正義のヒーロー「あらわし仮面」の活躍をテレビで見て興奮するのび太(六年生)。
(承前)七十年前に日本が大東亜戦争に敗北して終わった時、その反省は国内の世論に二種類の潮流を生んだ。
一つは、もう二度とこのような誤った戦争はするまいという誓い。
もう一つは、もう二度と戦争はするまいという誓い。
もちろん理論的に正しいのは前者である。スーパー戦隊や仮面ライダーも当然こちらの側に立った。ただ、正しい戦争などありえない、今後日本という国は一切の戦争を拒否する、という考えも容易に否定できるわけではない。徹底すればそれも一つの信念である。国民学校六年生で終戦を迎えた藤子・F・不二雄先生もまた後者の立場に立つ者であったことは、その作品の傾向から判断してまず間違いないと思われる。
だが結局それも徹底されることはなかった。1980年に『のび太の恐竜』劇場公開。成功への野心に目がくらみ、作家としての魂を捨てたF先生は、とうとう悪者をやっつける話に手を染めた。一度そこに手を出してしまった以上、もはや後戻りはできない。以後ドラえもんたちが正義の拳を悪者どもの上にふるい続ける話を続けざるをえなくなった。ペンを手に机に突っ伏して死ぬその日まで。
「あらわし仮面」をバカにしていたドラえもんは、自分が同じことをすることになったことを、どう思っていたのだろうか。
そしてそれは日本の戦後の平和運動が常に負け続け、ずるずると後退戦を強いられてきた歴史と重なり合う。
もちろん戦争はしないにこしたことはない。だからといって実際に戦争が起きた時のことを考えずに済ますことはできない。普段から常に平和とはなにか、正義とはなにかという問題について真剣に考えておくことは必要であって、スーパー戦隊も仮面ライダーもその通りにやってきた。「現実に目を向けない理想主義者」は、現実に戦争の可能性が目前に迫ったら何をどうしていいのか分からなくなる。そして目の前にエサをぶら下げられるや、いとも簡単に「理想に目を向けない現実主義者」に豹変する。
『ドラえもん』の話をするつもりが、なんでまたこんな話になったんだろう。別に安保法制の話なんかする気なんか全然なかったんだけど。
「パーマンをやることは義務なのか」に続く
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