シャーロック・ホームズと仮面ライダーの差
アンソニー・ホロヴィッツ『シャーロック・ホームズ 絹の家』(原書2011年)
昔のキャラクターを利用して新作を出すという商売は全世界のどこでも行なわれているが、その中で最も活動が盛んなのは間違いなくシャーロック・ホームズ物であろう。コナン・ドイル没後も世界中でホームズの冒険譚は絶え間なく作られ続けており、この『絹の家』もまたその一つである。ただ、ミステリーとしてよく出来ているとか、ホームズやワトソンのキャラクターの再現度も高いとか評価されている一方で、話が暗くて爽快感が少ないという批判にもまたさらされている。おそらく書いた人の志が高すぎたのであろう。
『絹の家』のホームズは単に犯罪捜査を行なうのみならず、より巨大な社会悪に戦いを挑む。ということは、ドイル自身によって書かれた、いわゆる「正典」においては、ホームズはその社会悪に対して見て見ぬふりをしていた、いやそれどころか加担者ですらあったという事実が読者の前に浮き彫りになる。
これは明らかにホームズに対する批判である。
コナン・ドイル財団も、よくぞこんな小説に公認を与えたものだと思う。
その試みは必ずしもうまくいっているとは思わない。二十一世紀的な価値観で十九世紀の人間の行動を裁くという無理もなくはない。ただ、ホームズを完全無欠のスーパーヒーローのように思い描いていたファンにとっては幻滅であるのは事実である。作者は、無難なパスティーシュを書くことを自分に許さなかったのだ。シャーロック・ホームズの名はこれからの時代も永久に輝き続けるものでなくてはならない。そのためには現代の価値観でホームズはどのように見られるかに無頓着であることは許されず、たとえ「正典」を傷つける結果になろうとも、それを避けて通ることはできなかったのだ。
さて本題である。世界的な名キャラクターであるホームズと比べるのもどうかとは思うが、少なくとも平成ライダーが始まった当初は、そこには同じような志の高さもまた存在していたように思われる。そして、新しい時代の価値観に即した仮面ライダーを新たに作るということは、旧作もまた無傷のままでいられる保証はない。平成ライダーに対して「こんなのは仮面ライダーではない」と抗議の声を上げた人たちは、おそらくそのことに気づいていたのだろう。
時代は移り、かつては新作が作られるたびに聞かれた「こんなのは仮面ライダーではない」という批判の声は、近年はもうさっぱり耳にしなくなった。理由については書くまでもない。
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