伊上勝の孝行息子
竹中清・井上敏樹『伊上勝評伝』
井上敏樹というのは実はいい人なのではと前から思っていたが、やっぱりいい人のようだ。この本に載っていた、父君である伊上勝氏に関する思い出を綴った文章を読んでいたら、そう思った。
伊上勝氏の偉大さについては今さら述べるまでもあるまい。東映特撮のヒーローの原型を、脚本家として全部一人で作った人である。その超売れっ子がわずか十年ほどの間に才能を枯渇させ何も書けなくなり、酒に溺れて惨めな晩年を過ごすことになったのは、まあ本人に責任がある。売れている間に、自分の作風の幅を広げる努力を何もしなかった(あるいはしたけど実を結ばなかった)からである。
私は時々考える。時代が父を追い越したのか、それとも時代には関係なく父は書けなくなったのか。きっとどちらとも言える。いずれにせよ父は書けなくなったに違いない。ずっと同じ井戸を掘っていてはいずれ水は涸れてしまう。こう井上氏は書く。だが「どちらとも言える」は違う。事実は明らかに後者だ。井上氏によれば、かつてヒーローとは孤独なものであり、一般人にとっては遠くから憧れる対象であった。それが時代とともに変化し、身近で親しみやすい存在となることを要求されるようになっていく。しかし私の見たところ、ヒーロー像が完全に交代したのは1990年代前半頃である。伊上氏が書けなくなったのは1980年頃。明らかに井上氏は、父君を可能な限りかばいたい、という意図を持ちながら書いている。
戦隊シリーズで言えば、曽田博久氏なんてのも明らかにヒーローの孤独さを描く人であった。戦隊って仲間が一杯いるのに孤独なのか、と言われるかもしれない。しかし曽田氏が全共闘の活動家であり、そのスローガンが「連帯を求めて孤立を恐れず」であることを思い起こせば平仄はあっている。
そしてその「大衆にとって遠い存在であるヒーロー」という像に完全に引導を渡したのが、井上氏がメインライターを務めた『鳥人戦隊ジェットマン』(1991年)である。伊上氏はそれを毎週楽しみに見ていたらしい。
自分の息子が自分と同じ職業を選び、自分を乗り越える。これほど父親冥利に尽きることはあるまい。こんなによく出来た、こんなに立派な息子を持ちながら、伊上氏は一体何が不満でアル中になんかになったのだろう。
よっぽど弱い人だったのだろうか。
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