藤子・F・不二雄にとっての「戦後」(中編)
藤子・F・不二雄『ドラえもん』「階級ワッペン」より。この見方も単純過ぎる。
(承前)平和と繁栄を謳歌している21世紀のトーキョー。しかしその高度な科学技術文明も、設定によれば、人類が自力で築き上げたものではなく、地球に来訪した宇宙人から与えられたものである。それが、純粋な善意によるものなのか、それとも地球に利用価値があったからなのかについては、よく分からない。一つだけ確実なのは、地球にとって宇宙人の指導を受けるか受けないかの選択の余地などなかったということである。
年表によれば、1983年ごろに第三次世界大戦の危機があり、そして人類はそれを自力で解決できず、宇宙人が介入してくれたおかげで防ぐことができたという。そしてその後、地球は星間連盟に加入し正式に宇宙人との交流が始まったが、こういう経緯がある以上、地球に自治権が認められたとは考えにくい。
二人連れの客が「地球を地球人の手に取り戻せ」と演説をぶちあげたのは、そのような事情が背景にあったと思われる。
そしてその主張に対して、21エモンは何の関心も示さない。
21エモン、そしておそらくは他の圧倒的多数の地球人にとっても、豊かで安全な生活が保証されてさえいれば、独立の気概とか地球人としての誇りとかどうでもよい、と考えられているようなのだ。まさに鼓腹撃壌。
これが戦後日本の似姿であることは言うまでもない。藤子F先生が何を考えてこんな話を書いたのか、ちょっとよく分からない。F先生といえば1933年生まれ、生まれた時から戦死こそ名誉と周囲の大人たちから叩きこまれ、それがある日いきなり引っ繰り返った。この世代の人間には、だから深刻なトラウマを抱えた人もいる一方で、大多数は大した苦悩も葛藤も経ず、自分たち庶民は悪い指導者にだまされて戦争に協力させられ犠牲を強いられていたのだとみなし、アメリカのような優れた文明国の指導を新しく受けることになったことを光栄に感じたのだった。
それは同時に日本人に対して、戦争というものは、するもしないも決めるのは上のエライ人たちであって、我々庶民はそれに振り回されるだけの存在なのだ、という考えを植え付けた。『ドラえもん』において語られる大東亜戦争も、それは我々日本人が日本国の名のもとに戦った戦争であるという意識が極めて薄い。それは後続世代にも受け継がれることになった。しかしそんな戦争観が国際社会で認められるはずもないのである。(続く)
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