『七人の侍』は本当に名作か
娯楽作品というものは芸術作品よりも低く評価されるのが普通である。
しかるに、『七人の侍』はなぜかくも高く評価を受けているのだろう。不思議だ。日本映画オールタイム・ベストを選ぶという企画があればほぼ確実に一位。今さら言うまでもないことであるが、『七人の侍』は純然たる娯楽作品である。もちろん、娯楽作品としては超一級の作品であることには間違いはないが、娯楽作品としての限界もまた存在している。だから1954年に公開された当初は、批判的な評もあった。それがベネチア映画祭で銀獅子賞をとったら賛美一色になったらしい。いかにもこの国にありそうなことだが。
どんな批判かというと、さんざん語られ尽くして今さら書くまでもないのだが、要するにこの映画には侍・百姓・野伏せりの三種類の人間が出てくるのだが、それが完全に固定化されてしまっているということである。現実は、人間は誰でも気高き侍にもなりうるし、卑小な百姓にも残虐凶暴な野伏せりにもなりうる。秀吉の刀狩り以前という時代設定を考えれば、考証的にもおかしい。
そしてそのように人間の複雑さを切り落として単純な図式に落としこんだからこそ、世界中で大ヒットしたのである。
実際、2015年の現実を生きている我々には、たとえ娯楽映画といえども正義や悪というものをそんな単純な図式で描いていいものであろうか、という意識がちらつく。にもかかわらず『七人の侍』を見ると、理屈抜きにぐんぐんと画面に引き込まれてしまうのである。これはやはり黒澤明を筆頭とする当時のスタッフや俳優がよっぽど偉大だったのか、それとも以後の日本映画のシステムがどんどんダメになっていったということの証左なのか、邦画界のことについてはよく知らないが。
さてスーパー戦隊でも仮面ライダーでも、「大人の鑑賞に堪える」なんてことがよく言われる。単純な勧善懲悪もいいが、人間の複雑さを描いてこそ、見ている子どもたちの心に後々まで残る作品が出来上がる、とか。しかし『七人の侍』のような単純な作品が今なお名作と称えられている現状を鑑みると、問題はそれほど簡単ではないように思える。私自身も1970〜80年代のスーパー戦隊を今見ると、価値観が古いと感じぬわけでもない。それでも今の作品よりは見ていてワクワクする。これを単に懐古厨の戯言と片づけて良いものかどうか。
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