勧善懲悪で何が悪いのか?(後編)
(承前) 『秘密戦隊ゴレンジャー』(1975年)の第40話「紅の復讐鬼! 地獄のモモレンジャー」でモモは変身不能に陥るのだが、それはそれで仕方がないから残りの四人でなんとか鉄カゴ仮面を倒すための作戦を考えよう、という方向に発想が一切いかないというのが面白い。だから、ただひたすらモモは変身能力を取り戻そうともがき苦しみ、他全員ともそれを待つだけだった。
だいたい1970〜80年代は、みんなそんな感じだった。最初に理念というものがある。そしてそれに基いて人員を集め装備を整え戦法を確立させる。そして途中でどんな障害にぶち当たろうと、決して現実に合わせて戦術を修正したりすることはない。つまりこれが、森の中で迷子になったらひたすら北に向かう、に相当する。というか戦隊に限ったことではなく、勧善懲悪のヒーロー物というのはたいていそうだった。そして決して揺るぐことのない固い信念を抱いて困難に立ち向かうヒーローに、視聴者は頼もしさを覚えていたのであった。
ここでまた転換点として名前が出てくるのが『鳥人戦隊ジェットマン』(1991年)である。スカイフォースの知力体力に優れた精鋭隊員に、バードニックウェーブを浴びせて更に強化した人間を戦士にするつもりが、バードニックウェーブを浴びただけのズブの素人を戦士に起用せざるをえなくなった。いきなり最初から修正が入ってしまったわけである。ただ、戦いの根本的な方針は組織によって定められているという限界はあり、極北はやはり『未来戦隊タイムレンジャー』(2000年)になるのだろうか。戦士に最も適任なのはこの五人だ、という保証を誰からも与えられることなく発足した戦隊。戦いの行く末に何が待っているのかすら分からないまま戦いは始まる。そしてひたすらその場その場の判断で、目の前の困難を一つ一つ除去していくだけである。
「理念に基づいた戦い」と「現実に基づいた戦い」を対比させ、これと「集団の戦い」と「個人の戦い」という対立軸とを組み合わせれば、新しく戦隊マップが出来るはずである。ただ、どうしても日本人には、滅私奉公を尊ぶ民族性というものがあって、根本的な方針を定めるのが組織の役割であり臨機応変に判断するのは個人の役割、などという思い込みが染み付いている。理念・現実の軸と集団・個人の軸との違いがどうにもイメージしにくくて、作業がはかどらないのである。
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