ヒーロー番組に残虐描写は必要か(前編)
「最近の仮面ライダーは昔に比べて面白くない」と唱える人の根拠の一つとなっているのが、残虐描写に対する表現規制の問題である(鈴木美潮氏など)。
人が殺される場面など滅多に出てこない。そのためにストーリーに迫力が生まれない。これはテレビ局の放送コードだけの問題ではなく、あまり怖くしすぎて子どもたちに避けられて視聴率が下がっては困るという自主規制も含む。
にわかには賛成できない意見である。
今のヒーロー番組が以前に比べて緊迫感を欠いているという点には同意するが、それは別に規制の問題ではなくて、他の理由、たとえば脚本家や監督の技量が落ちているために視聴者をハラハラさせるドラマを作ることができないのを、他に責任をなすりつけているだけのようにも思える。昭和時代のヒーロー物だって、それほど簡単に人が死んでいたわけではない。富士山を噴火させ日本列島を真っ二つにするなどという壮大な作戦を立てては正義のヒーローに阻止されるばかりで結果として人一人殺せない悪の組織であったとしても、それでサスペンスがなかったなどとは言わせない。
この問題でよく引き合いに出されるのが『仮面ライダークウガ』(2000年)である。しかし、私は先日全話視聴したばかりなのだが、人がいっぱい死ぬからといって、それが作品の緊張感に結びついていたとは到底思えなかった。緊張感を最も味わったのは、第24話で桜子が襲われた時と、第27話でプールに行ってきたおやっさんたち一行が未確認とニアミスをした時である。どこの誰とも分からぬ人が百人殺されるよりも、レギュラーキャラが殺害現場の近くにいたという、ただそれだけのことのほうに見ていてヒヤリとさせられた。
人が一人殺されたとする。その人にも生活があり、家族や友人、将来の夢といったものがあった。それを視聴者に対して実在感があるように描くのでなければ、死の重みも生まれてこないし、百の死体を出したところでストーリーに緊張感が増すわけでもない。むごたらしく殺された死体を出せば視聴者の気を引けると考えているとすれば、安直にもほどがある。
ところで、ここまで書いたところで念のためにと調べてみたら、第24話も第27話もどっちも脚本が井上敏樹氏の回だった。別に私は熱烈なファンというわけでもないんだけど、それともメインライターが下手すぎなのか。(続く)
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