「モロボシ・ダンの店」を哀れむ

 昔ヒーロー・ヒロインを演っていた人に会いに行くということについて、再び。

 今では飲食店などを経営しており、ファンの人も来てください、などと宣伝をしている人たちもいる。いかにも問題なく楽しめそうな感じがする。ところが実際はそうでもないらしい。『ウルトラセブン』でモロボシ・ダンを演じた森次晃嗣氏のやっている店の噂話を聞いていたら、無性に悲しくなってきた。
 どっちが悪いという話ではない。森次氏の性格が接客業に向いていないのか、特撮オタクのマナーが悪すぎるのが原因なのか、そんなことは副次的な問題に過ぎない。店に行って不満を持ち帰ったファンの言い分はこうである。自分は千円を使った、しかるにそれに相当するだけの満足感を得られなかった、と。
 子供の頃に憧れたヒーロー・ヒロインに会うということ。そこで得られる喜びというものは、本来であれば値段など付けられないはずのものである。それに森次氏は値札をつけた。だから、得られた満足感が値段を上回っていれば満足するし、下回っていれば不満を持つ。当然のことである。そして、そういう仕組み自体に対する疑問ではないらしい。
 金銭の介在は、確かに物事の取引をスマートにさせる。普通、初対面の人に会いに行くには勇気がいる。相手に迷惑と思われたらどうしよう、嫌われたらどうしようという不安。しかし客として行くのであれば別だ。こっちは金を払ってるんだ、だからその分満足させろと気安く行ける。安全なのである。その代わり、心と心のふれあいなど、最初から期待するべくもない。
 森次氏の店にしても、そのハヤシライスが絶品で、別にウルトラセブンなんか売りにしなくても繁盛するような店だというのであれば話は別である。だが実際はそうではない。金銭が一旦からんでしまった以上、そこには純粋な思い入れなど入り込む余地はない。森次氏が本心から『ウルトラセブン』という作品を愛しているのか、それとも商売上そう振舞っているだけなのかなどということは問題にもならない。
 やっていることはアイドルの有料握手会と一緒である。

 別にそれが悪いというのではない。ただ、そういう考えに慣れてしまった人からすれば、すでに芸能人を引退し、また元芸能人であるということを商売に利用していない人に会いに行くなどということは、想像もできない蛮行なのだろうなあという気はする。

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