島本和彦と大川めぐみと作家の自意識について

島本和彦『燃えよペン』
 島本和彦『燃えよペン』はマンガ家・炎尾燃を主人公にしたギャグマンガであるが、その「偶像憧憬敗北編」、これは炎尾が編集部を利用してアイドルに会おうと画策する話である。この冒頭で、これはフィクションであって、炎尾と島本は全くの別人と大書してある。これは「自分は炎尾ほどの馬鹿ではない」という意味だと誰もが思ったことであろう。違うのである。「自分の馬鹿は炎尾程度では済まない」という意味だったのである。
 『少年サンデー』の増刊号で、島本和彦と大川めぐみのデート、などというグラビア企画が載ったことがある。これがどうも変なのである。ザラ紙で二色刷りでは、女優の顔も変に赤っぽくなって、美しく印刷されないことは最初から分かりきっている。対談の中身もスカスカだし。『サンデー』として、大川めぐみをプッシュしようという気が全然感じられない。で、しばらく考えて分かったのは、これは大川めぐみのための企画ではなく、島本和彦のための企画だったということである。
 島本和彦は大川めぐみに会いたいと思った。そこで対談企画を編集部に提案した。ところが編集部はそんなものは面白くないと判断し、島本和彦に思い切り恥ずかしい格好をさせ、にやけた面を誌面に載せて全国に晒そうと企んだ。なんという奸智に長けた連中であろう、少年雑誌の編集者というのは。そしてそれに乗せられた……いや、乗ったにちがいない。あこがれの大川めぐみさんに会えるのであれば、どんな恥辱にも耐えてみせよう、と。そして自作の『風の戦士ダン』のコスプレ(当時はそんな言葉はなかった)をして公園に向かう島本先生……。
 なんという天晴さ。
 それにしても、島本先生はこんなに面白い人なのに、『アオイホノオ』の焔燃はなんであんなにつまらないキャラなのだろうか。すでに島本和彦はマンガ家として成功した。そんな人が、学生時代にこんな失敗をした、こんな恥ずかしい経験をしたといくら描いたところで、今さら自分自身傷つくことはない。自分を安全な立場に置いて作った作品に魂が宿るわけがないだろう。ここは一つ、「大川めぐみさんに会わせてくださいっ!」と編集部に言った時の心に立ち返るべきである。そうでなきゃ、島本先生のにやけ面、このブログにアップロードしちゃうよ。

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