水木しげるは本当に「反戦」と言わなかったのか(後編)
水木しげる『決戦レイテ湾 第六部 壮絶 特攻』
(承前)水木しげるの貸本劇画時代の戦記物からは、戦争の格好良さを感じる部分がなくもない。
などと言ったら確実に怒る人が出てくるだろうけど、しかし戦争の悲惨さと格好良さというのは本来なら表と裏の関係のはずだ。桜は散るから美しい。その後水木しげるは自らの従軍体験をもとにした作品を発表するようになり、そこでは悲惨さや愚かしさ一辺倒の描き方になっていく。
いったん戦争が始まれば、平時の常識は戦時の常識に取って代わられる。それは平時の感覚からしてみれば、おぞましく、しかし同時に魅力的なものでもある。そのような異世界の存在を垣間見たいという欲求をかなえてくれるものとして、サブカルチャーにおける戦争を扱った作品は存在していた。それが機能しなくなったのは、いつ頃からなのだろうか?
仮面ライダーやスーパー戦隊に代表されるヒーロー番組もまた同じ流れにあった。
『仮面ライダークウガ』を見て驚いたのは、そこでの人々の生活が、視聴者である我々の生活と何一つ違った所がないということである。人々は毎日会社や学校へ通い、警察はマニュアルに従って出動する。暴動が起きることもないし政府の内部で不穏な動きが出るということもない。わずかにポレポレで、最近は外出を控える人も減ったなあという会話が一度出たきり。
案外これがリアルなのかもしれない。正体不明の生命体が頻繁に出没し、何千何万という単位で人が殺さる事件が続いている、にもかかわらず人々は整然と平時と何も変わらない生活を営んでいる、というのは。
「異世界を覗き見るような興奮」を、かつての仮面ライダーシリーズが十分に描いていたとは思わない。とりあえずものすごく理不尽な運命を背負わされた主人公というのだけ出しておいて、あとは視聴者の想像に任せていた。しかしリアルさを求める風潮の高まりの前には、理不尽なものを理不尽なまま視聴者の前にポンと出すという手法も、単なる手抜きとしか受け取められなくなる。
最近のヒーロー番組は昔に比べて緊張感がなくてつまらない、という主張がある。敵は恐ろしくなく、それをやっつけるヒーローの活躍にも爽快感がない。原因として挙げられるのは、テレビ局の規制なのか自主規制なのかは知らないが、人が死んだり残酷なシーンを滅多に出せなくなったことである。しかし問題はそんなところにはないような気がする。
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