仮面ライダーは面白くなければいけないのか

 白倉伸一郎氏はアンチも多いがファンも多い。自分は生産者の側の人間なのだから当然生産者の立場に立つ、消費者の立場は二の次である、とはっきりと宣言していることが、一種の清々しさを感じさせるからであろう。『仮面ライダー1号』公開を記念した井上敏樹氏との対談では、

仮面ライダーっていうのは「あって当たり前」、よくも悪くも、っていうのは一つのゴールなんですよ。なんか変なことやってるなっていうことじゃなくて「あって当たり前」っていうふうになっててほしい。でも、ま、見ていて面白いかどうかは(以下笑い声が起こって聞き取れず)
 笑い声が起こったのは、話の流れから、そんなものが見ていて面白いものではないことは分かりきっているからである。分かっていて、作る側の都合として、そうしたいと言っているのである。
 「スーパーヒーロー大戦」のパンフレットで、自分の仕事は劇場に足を運びたいと客に思わせることであり、その客が満足して家路につくかどうかには関心がないかのような発言をしたこともある。
 たとえて言えば、ビール会社の社長が、私はビールの味には関心がない、関心があるのは広告とかがうまくいって売れるかどうかだけだ、とあたり構わず公言しているようなものである。
 その社長が、ある日突然「みなさん、うちの会社のビールはおいしいと思いますか? 私は最近おいしいと思ったことがない」などと言い出したらどうか?
 消費者としては戸惑うだけだ。「あんたに酒の味なんか分かるの?」と。
 『仮面ライダーアマゾンズ』の制作発表会で、白倉氏が「最近の仮面ライダーを面白いと思ったことがない」などと言ったことが、大して話題になっていないということは、多分そういうことに違いない。
 『ドライブ』や『ゴースト』といった最近の仮面ライダーをつまらないと思っていた人たちの間からは、この発言を歓迎する向きも見られる。ライダーシリーズを安定して続けるためには『サザエさん』化する以外になく、実際そうしてきたが、それは地上波の制約があったからであって、動画配信ならもっと思い切ったことができるはずだ――とでも思っているのだろうか。しかし、今まで「仮面ライダーは面白くある必要はない」と言っていたまさにその当人の口から、「次からは本気を出す」みたいな言葉を聞かされても、なにをどう期待しろというのか。

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