小説の地の文における「姓と性」
佐野洋『推理日記』と言えばミステリー時評集の名作だが、さすがに三十九年間も雑誌に連載していたというだけあって、中には変なのもある。第七巻(1995年)収録の「女性登場人物の呼び方」では、小説では地の文で男は姓・女は名で書き表す習慣があるが(佐野氏自身も含めて)、これは女性蔑視なのではないかとか書いてある。
なんじゃそりゃ。
「神の視点」なんて言葉もある通り、小説においては作者は神である。だからといって作者は登場人物全員に対して全くの公平・平等な態度で接しなくてはならないわけではない。堅苦しい雰囲気の中で接する登場人物もいれば、なれなれしい態度で扱う登場人物もいる。それに応じて登場人物を姓で記したり名で記したりする。そしてその結果として男は姓・女は名というふうに書き分ける小説が出来上がったりもする。実際そういう小説は多い。それをいちいち女性蔑視とか言われてもなあ。
ただこれは佐野洋氏が変というよりは、1980年代が変な時代だったという気がする(1995年はその予熱が続いていた時期)。
日本におけるフェミニズムの最高揚期。
女性差別をなくすということと、男と女の扱いを何から何まで同じでなければならないとすることは別だろう。こういう稚拙な議論をしていたことが、その後フェミニズムが自民党にとりこまれ、単なる資本主義の補完勢力に成り下がっていくことにつながっていったような気がしてならない。
戦隊シリーズで言えば、『電撃戦隊チェンジマン』(1984年)で伊吹長官が「さやか」「麻衣」とか呼んでいるのが、不自然といえば不自然である。しかしその不自然さが、隊内の人間関係の多様性を保障していたという面がなくもない。翌年の『超新星フラッシュマン』以降は呼称は名で統一されることが多くなる。ともに命をかけて戦う仲間の間で差をつけるようなことがあってはおかしいという配慮なのであろうが、それがドラマ性を薄める作用も果たしたような気もする。
そろそろ姓で呼び合うような戦隊を久しぶりに出しもいいのではないだろうか。
戦隊における人間関係と呼称
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