水木しげるは本当に「反戦」と言わなかったのか(中編)
(承前)『超電子バイオマン』(1984年)のエンディングから
命それより大切なこんな深刻な歌詞を、明るくポップな曲調に乗せて歌っているのを今聞くとシュールな気分に陥る人もいるかもしれない。しかしこれが1980年代の普通の感覚であった。
ものがオレにはあるからさ
命より重いものはない、というのはあくまでも平時の常識である。殺人事件が起きるたびにいちいち人命の価値について議論なんかしていたのでは裁判所は大変だ。何人殺したら量刑はどれだけと事務的に決めておく、それが法律というものであり、通常はそれで社会は運営されている。そしてそんなルールが吹き飛ぶのが戦争である。平時には平時の常識があるように、戦時には戦時の常識がある。そこでは人命もまた一銭五厘で補充可能な消耗品としてしか扱われなくなる。いいとか悪いとかいう問題ではない。戦時の常識を平時の常識を基に批判しても無意味であるし、平時の常識を総動員したところで戦争の抑止力にはならない。
もちろん子ども向け番組であるから、いったん戦争になったら人の命なんか全然重いものではなくなると真正面から描くわけにはいかない。しかし、子どもたちの日常生活を普段支配している、学校の先生や親から教えられるようなことが、一切通用しなくなるような瞬間が訪れることは世の中にはありうるし、そのような世界を垣間見せるような役割を果たしていたからこそ、子どもたちは夢中になって番組を見ていたのではないか。そこでは大きな使命のためには自らの命を喜んでなげうつ戦士の存在は不可欠である。
ヒーロー番組といえばPTAによって昔から目の敵にされていたのも、それが理由の一つではなかったか。そしてイケメンヒーローブームを経て、財布を握っているお母様方の歓心を買うのも玩具販促にとって重要な課題となった今となっては、もはやヒーロー番組の描く世界もまた平時の常識の枠内から出られなくなったような感じがする。
そこで思い出すのは『仮面ライダークウガ』(2000年)についての議論である。リアルさを描いたという声も聞くし、リアルを期待して見たらがっかりしたという声も聞く。恐らく『クウガ』が描いたのは、平時のリアルである。警察は出てくる、しかし自衛隊は出てこない。それほどの大事件ではないからである。そして古参のライダーファンが期待していたのは、戦時のリアルではなかったか。(続く)
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