マルクス主義vs.『ONE PIECE』(前篇)
少し前、紙屋研究所というマンガ批評サイトで「なぜ『ONE PIECE』はつまらないのか?」という記事が上げられた際、ちょっとした騒ぎになった。論争というほどのものではない。『ONE PIECE』のファンがコメント欄に大挙して押し寄せ、その記事を批判したのであるが、傍から見ていてこれは紙屋氏の完勝であった。氏は『ONE PIECE』がつまらないマンガであることをマルクス主義的歴史観に基づいて科学的に証明したのであるし、それに対して『ONE PIECE』のファンのほうはというと、いやこのマンガの面白さは冒険だのロマンだのと話をそらすばかりで、紙屋氏の証明に対して真正面から反論しようとした者は皆無であった。(まあどうせマルクスなんか読んだこともないのだろうけれど。)
マルクス主義などと言うと、最近の若い者は馬鹿にするであろうが、人類の歴史の法則をマルクス主義よりうまく説明できる原理は今のところ存在しないのだし、そうである以上、冒険だかロマンだかなんか知らないが、人間が成長し発展するという原理を否定する『ONE PIECE』のようなマンガの価値など認められるわけがない。『ONE PIECE』のファンは「こんなにも売れたんだから」と擁護しようとするが、売れたってしょせん350万部程度ではないか。マルクスの著作の何分の一なのか。
にもかかわらず、紙屋氏は記事の末尾をこのような自信のない言葉で結ぶ。
一体みんなは、このマンガのどこを面白いと思っているのか。逆にそれを聞いてみたい。聞いてどうするのか。
紙屋氏はかつて『ヒカルの碁』を論じた際、「神の一手」という存在がいかにマルクス主義的歴史観に合致しているかについて、エンゲルスの『反デューリング論』だのレーニンの『唯物論と経験批判論』だのまで持ち出して論じた人だ。『ONE PIECE』がつまらないマンガであることはもはや科学的に証明されたのであるし、そうである以上、『ONE PIECE』なんか読むな、買うな、子供に誤った人間観を植えつける恐れがある有害なマンガであり、子供が読んでいたら取り上げるべきである――これ以外に一体どのような結論がありうるというのか。それなのに、なぜ結論を出す段になって急にこんな日和った態度をとってしまったのか。
要するに、我々は根本的なところで少年マンガを批評することはできないのである。それは特撮ヒーロー物も含めて子供向け娯楽作品すべてについて言えることではあるのだが。(中篇に続く)
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