女性アクション映画(大人向け)のお寒い状況(前)
四方田犬彦・鷲谷花(編)『戦う女たち――日本映画の女性アクション』
『華麗なる追跡』(1975年、主演・志穂美悦子)という映画がある。正義のヒロインが悪党の屋敷に乗り込んだものの敵に捕らわれ鎖で縛られ、天井から吊るされてムチで打たれるんだか、そのシーンで敵のボスのセリフが
そのうち裸にひんむいて犬にしてやる。鎖を引きずってな。永遠にこの屋敷で家畜となって生きるんだ。「そのうち」って何よ……。
自分の命を狙いに来た女武道家を、あっさり始末するのでは面白くない、生かしておいて家畜として調教しよう、まあここまでは理解できる。だったら今すぐ裸にひんむいて、自我崩壊まで屈辱を与えるべきだろう。なんで着衣のままムチで打っているのだろうか。というか、この映画じたい何がしたいのか全然分からない。見終わって五分も経てば、どんな筋だったかも思い出せない、そういう映画である。
志穂美悦子と言えば日本のアクション女優の最高峰である。顔、アクション、演技力のいずれも申し分なし。しかしその彼女の主演映画にはろくなものがない。別に脚本も演出も凝る必要なんかなくて、素直に彼女の女優としての魅力を引き出す画を撮ればいいだけの話だ。しかしそれすらできていない。まだ十分人気がありながら、1987年にあっさり引退しちゃったというのも、なんか分かるような気がする。
女性アクション映画というジャンルがある。緋牡丹博徒シリーズ(主演・藤純子)、女囚さそりシリーズ(梶芽衣子)、女必殺拳シリーズ(志穂美悦子)と、全部東映だったりする。スーパー戦隊シリーズが魅力的なヒロインを次々と輩出することができたのも、その系譜を受け継いでいるからではないか、そういう方面からの分析も試みる必要がある……と思って何作か見てみたら、まったくの時間の無駄だった。話にならない。「子供だまし」という言葉があるように、一般的に大人向け作品よりも子供向け作品のほうが程度が低いと思われている。しかし、少なくとも女性アクション映画に関してだけは、子供向け作品のほうがずっと緻密な作りになっている。何なんだろうこの逆転現象は。
やはりそこには「性」の描き方に対する姿勢の違いが関係しているような気がする。(続く)
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