作品を作ることの喜びと悲しみと
藤子・F・不二雄『未来の想い出』
ふええ、藤子・F先生もこんなこと考えてマンガ描いてたのか、晩年の作品のマンネリっぷりは本人も自覚していたんだなあ……などと勘違いしてはいけません。まあ、このコマだけ取り出して見せられたら勘違いして当然だけど(ごめんなさい)。
『未来の想い出』(1991年)はエッセイマンガではなくて、純然たるフィクションである。主人公の納戸理人はマンガ家だが、戦後生まれで出身は山梨。自伝的な要素はない。ただ、主人公の顔は作者の自画像の流用。それでこんなセリフをつぶやいてるんだから、読んでる方は当然ギョッとする。
日本一のマンガ家になるぞと青雲の志を立てて上京し、数多くの苦難を経てようやっと花開いた才能、そして大ヒット作家へ……と思ったその時点で既にマンガを描く喜びは消えていた。それだけでも悲劇だが、その上さらに悲劇的なのは、その悲劇を悲劇と感じる感覚すら麻痺してしまっているということだ。普通のマンガ家は、自分は今マンガを描いていて幸せなのだろうか、などと自問することすらない。
「ものを作る喜び」というのは、それほど簡単に消えるものらしい。それに代わって作家を突き動かす原動力となるのは、金や名声に対する執着心である。そっちの方はずっと強力で長続きする。というようなことを石ノ森章太郎も『マンガ家入門』(1965-66年)で書いていた。超一流の作家だけが気づく悩みというものがあるようだ。『未来の想い出』の安直な結末も、逆に現実の厳しさを浮き立たせているようで、かえって切ない。これが『ドラえもん』を除く最後の連載作品になる。
さて東映特撮の話だが、雑誌のインタビューとかを読んでいると、現代において仮面ライダーを作ることの意義はなにか、ということを熱っぽく語っている人が、別の所では、商品の売上高とか興収とか、まるで金のことにしか興味がないかのようにしゃべったりすることがある。どっちが本心なのだろうか。多分どっちも本心なのだろう。藤子・Fや石ノ森などには及ぶべくもないが、プロとして食っていくことに不自由はしないだけの才能はあるクリエイターにとって、「ものを作るということ」は、そういうことであるに違いない。
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