水木しげるは本当に「反戦」と言わなかったのか(前編)
水木しげる『カランコロン漂泊記』より
雨宮処凛がゆく!「水木しげるさんの死〜なぜ「戦争反対とは決して言いません」だったのか。の巻」そうかぁ?
「決して言わなかった」ってことはないだろ。
かりに言わなかったとして、それが大した意味を持っていたとも思えない。『カランコロン漂泊記』で小林よしのりの『戦争論』を批判したことがあった(ものすごく遠回しな言い方だったが)。そこで言ってることは反戦平和と何も違いはない。「日本はペコペコ国でいいんだ」とまで言っている。というか、むしろマスメディアでデカい面して「反戦平和主義者」を自称している連中のほうがこういうことを言わない。言明を避ける。しかし「私は最も正しい戦争よりも、最も不正な平和を選ぶ」と堂々と言えずして何が平和主義者か。そしてそんな口先だけの自称平和主義者たちと一緒にされたりしては水木しげるの商品価値が落ちてしまうと考えて、マネージャーさんはそういうことを言ったに違いない。賢明な判断である。
水木しげるの思想は「反戦」という括りに入れられるほど単純なものではない。しかし同時に「反戦ではない」という括りに入れられるほど単純なものでもない。そんなことくらい作品を読んでりゃ自明だろう。戦争体験の悲惨さを語り継いでいくことと、戦争に反対するのとは全く別の概念だ。もちろん、戦争の実態がいかに悲惨なものなのかを知らないまま、やたら勇ましいことを呼号する愛国者気取りというのはいつの時代にもいるが、ああいうのは論外だから処置なし。戦争が悲惨なのは自明のこと、議論の前提である。悲惨ではあるが、民族の独立と誇りを守るためにはやむを得ないと思う者によって世界中で戦争は絶えることなく行なわれているのである。「悲惨だから戦争はやめよ」なんて言ったところで何の説得にもならない。
いついかなる場合においても戦争に反対するのか、それとも正義の戦争と不正の戦争の区別はあって後者にだけ反対するのか。日本の戦後の平和運動はずっとその点を曖昧にしてきた。そのツケを今まさに払わされている。学者や評論家や政治家の偉い人達が幼稚な議論にうつつを抜かしている間に、戦争について最も真摯な姿勢で取り組んできたのがサブカルチャーの分野であるというのはつとに指摘されていることであり、水木マンガも当然ここに入る。スーパー戦隊シリーズを含めたヒーロー番組もまたその一翼を担う。もちろん正義の戦争はあるという立場で。そこで長年かけて培われてきた議論が現在全く生かされていない。歯がゆいばかり。(続く)
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