桐野夏生の連合赤軍小説が始まった

山本直樹・桐野夏生
桐野夏生・山本直樹対談 『文學界』2008年10月号

 『文藝春秋』の2014年11月号(10月10日発売)において桐野夏生『夜の谷を行く』の連載小説が始まった。桐野氏は以前から連合赤軍事件に興味があると言っていたから、いよいよその思いを結実させる時が来たということなのであろう。
 連載第一回目だけを読んでこういうことを言うのもなんだが、多分あんまり面白いものにはなるまい。私は連合赤軍に関するフィクションもノンフィクションも結構読んでいるが、圧倒的にノンフィクションのほうが面白いのである。
 十四名にも及ぶ同志殺害事件。しかしこの奇怪な事件も、四十年も経てば真相もかなり明らかになってくる。それは決して残虐な性格をした無能なリーダーに、他のメンバー全員が服従を強いられた結果として起きた事件、なんかではない。原因は事件に関わった全員にある。社会経験に乏しいくせに正義感だけは強く、視野が狭く、意志も弱くて勇気も決断力もない。ただし、その程度の事なら若い時分には誰にだってある。多少愚かではあっても、それほど極端に愚かではなかった、一人一人は。その愚かさが積もり積もった結果として、「普通の若者たちが起こした異常な事件」は起きた。
 だから結局連合赤軍事件の真相に迫ろうと思うのであれば、マクロの視点が不可欠である。山本直樹『レッド』もまたフィクションではあるが、評価が高いのは徹底してその視点から事件を描いているからである。一人の人物に焦点を合わせて事件を見ようとしても、何も見えてこない。もっとも桐野氏も優れた実績を持った小説家であれば、こんなことは分かりきっているのであって、そこを敢えてミクロの視点から事件に挑もうというのは、何か隠し球でもあるのだろうか。私の予想を裏切って面白くなることを期待。

 そういえばナチズムなんてのも、昔は悪魔の如き知謀に長けた一人の独裁者が国全体を地獄に導いた、みたいな描き方をするのが普通だったなあ。最近になって、ヒトラーも一人の人間でしかなかったという観点からナチズムを見ようという動きが出てきている。例の、おっぱいぷるんぷるん!の映画とか。多分そっちのほうが正しいと思う。

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