仮面ライダーと原発(前編)
彼〔青柳誠、引用者注〕はエンジニアとして、原発は危険で、原発は無用だという一種の迷信に反発し、原発は現在の人間生活に必要なものであり、完璧な運営をすれば、絶対に安全なものなのだと言いたかったのだろう。実際今の日本の社会は原発の電力なしでは、経済復興も何もなりたたないのだ。それを考えずに闇雲に原発廃止を迫る人は百年前の飢餓と隣り合わせの生活を覚悟して言っているのだろうか。(平山亨『東映ヒーロー名人列伝』1999年、p.122)平山氏が特に愚かなわけではない。「3・11」以前にはよくいたのである。核物理学なんかまともに勉強したことがあるとも思えないのに、ただひたすら原発の絶対安全性を声高に叫ぶ人というのが。
平山氏の著作を何冊か読んでみれば、この人が徹底的に無思想の人であることが容易に感じられる。理念や哲学を持たないことを、積極的に選択した人である。氏によれば、テレビ番組というものには二種類しかない。面白い番組と、つまらない番組と。そしてそれがプロデューサーとして、数々のヒット作を生み出す原動力にもなった。ただそういう、子供たちの心にいつまでも残るような深いメッセージ性など無用、今が楽しければよいのだ、というスタンスが通用したのは、当時が高度経済成長期だったからだとも言える。経済成長こそが正義だ、経済的に豊かになることが人々の心をも豊かにすることだという考えが何の疑いもなく横行していた時代である。現代ではもはや通用する手法ではない。冷戦が終わり、そもそも正義とは何かということ自体が非常に見えにくくなっている現在の日本において、もはや『仮面ライダー』(1971年)を見てそのストーリーから視聴者が感じ取れることなど何もない。
「3・11」以後、経済成長イコール正義という主張も以前ほど威勢は良くなく、かといってそれに取って代わる新しい理念が台頭してきているわけでもない。大多数の国民は、今後の日本のエネルギー政策がどうあるべきかについて真剣に考えようともせず、原発から目をそらそうとしているように思える。そしてそれは今の混迷の続く仮面ライダーシリーズの状況と奇妙な類似が見られる。(続く)
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