鈴木美潮という特オタ女の勘違い

鈴木美潮
鈴木美潮『ヒーローたちの戦いは報われたか』 オビの推薦文には藤岡弘、、佐々木剛、宮内洋、水木一郎の名前が並ぶ

 書き手の「熱」というものを、これほど感じさせない特撮本というのも珍しい。
 よく調べてあるなあとは思う。作品についてもその時代背景についても。ただしそれだけの本。
 一例だけ挙げると、p.56には仮面ライダーがなぜ正義のために戦うヒーローではないのかについての分析が載っている。おい、仮面ライダーが劇中で「正義」という言葉を使いまくり、挿入歌でも歌詞に「正義」が頻繁に出てくることを知らんのか。
 仮面ライダーが戦うのは正義のためではない、というのは平山亨プロデューサーが生前常々言っていたことである。インタビュイーは常に本当のことを言うとは限らない。その発言の中から何が真実で何が嘘かを見極める目が必要なのだ。言われたことをそのまま受け取る奴があるか。よくこんなんで政治部の新聞記者が務まるな、と思ったら、読売だった。読売なら仕方ないか。
 自分の目で見、自分の耳で聞き、自分の心で感じたことを自分の言葉で綴った本ではない。作品に関する分析も、その背景にある社会情勢に対する考察も、すべてどこかからの受け売りばかり。
 なんでこんな本が出たのだろう?
 逆のパターンはよくある。事実関係については間違いだらけなのだが、筆者の特撮に対する熱い思い入れがほとばしっている本。そういう本は少なくとも読んでて退屈はしない。この本はひたすら退屈なだけだ。
 おそらく、この著者が女性であるということと無関係ではないと思われる。
 特撮オタクにとって女性は稀少である。だからイベントなんかの場でさんざん「美潮ちゃん、そんなことよく知っているね」「美潮ちゃん、よくそんなことに気がついたね」などとチヤホヤされてきたことは容易に想像がつく。それはもちろん言っている方は「女の子にしては」という前提つきなのだが、言われた方は、自分が本当に一家言の持ち主としてみんなから認められたと勘違い、その結果がこの本なのだろう。
 特撮界ではいまだに、女にゃ分からぬ男の世界、という風潮が根強くある。作品の作り手の側からも、女性蔑視的な失言が途絶えないのはそういうことだ。この本が、そのような特撮界の偏見を一層助長することにならないことを願う。

8月21日に補論

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