ひし美ゆり子に対する疑念(前編)
ひし美ゆり子・樋口尚文『万華鏡の女』(2011年)
ひし美ゆり子という人は本当に『ウルトラセブン』という作品に思い入れがあるのだろうか?
それとも、ファンにチヤホヤしてもらえるしイベントにも呼んでもらえるからそんなふうに言っているだけであり、本当は『セブン』に対して関心なんか全然ないのではあるまいか? ――そういう疑念がわきおこらざるをえない本である。
といっても私もこの本全部読んでないんだが、第12話「遊星より愛をこめて」が『セブン』にとって最もデリケートな問題だということに議論の余地はない。それについて無思慮きわまりない発言をしているというだけで十分であろう。
第12話には何の問題もない、という主張をするならするでいい。しかしそれなら相応の論理的な根拠を述べるべきだ。安藤健二『封印作品の謎』は私はあまり高く評価してる本ではないが、せめてこの本に書かれた程度の知識くらいは持っていなくては話にならない。しかし樋口氏もひし美氏も、スペル星人の問題点について全く理解していない。そもそも、インタビュアーであるはずの樋口氏が一方的に自分の主張をぶつけ、それに対してひし美氏が調子を合わせてうなずいているだけ。これはもうインタビュー記事としても体をなしていない。
樋口氏は、「三年間何の抗議もなかった」という事実をもって、第12話自体には何の落ち度もなく「ひばく星人」と記した雑誌記事だけが問題であった、というふうに話をすりかえている。現代史について無知すぎだろう。昔の雑誌なんかを今読むと、左翼とか進歩派とか言われている文化人ですら、マイノリティに対する差別的な言辞を普通に吐いていたりする。当時が普通で今が過敏なのか、当時が過鈍で今が普通なのかは知らんが、とにかく1960年代末ごろに社会思想の大転換が起こったというのは戦後史の常識である。『セブン』の初放映は1967年、初めて抗議が来たのが1970年。放映当初は問題なかったのが、後になって問題アリとなったとしても、別に不自然なことは全然ない。(続く)
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