特撮ヒーローへの「誇りの強要」(後編)
(承前) 鈴木美潮のdonna 「赤祭」に戦隊の歴史支えた20人、「ムネアツ」超える感動!(2015年9月4日)についての続き。
今年も「激しい爆発シーンで、1年間の放送期間中に何度も爆風で飛ばされた」「ロープが切れて崖から落ちたのにその事故映像がそのままオンエアで使われた(もちろんDVDにもなっている)」「崖から落ちて肋骨を折ったが撮影はそのまま続行された」などのすさまじいエピソードが飛び出した。この手の、昔はこんなに危険な思いをして撮影をしていたんですよ(それに比べて今は……)、というような自慢話については、素直に感心できないところがある。
もちろん当時の撮影の現場に、いい作品を作りたい、迫力のある画を撮りたいという情熱がみなぎっていたというのは事実であろう。それが彼らを命知らずのアクションへと突き動かしていたとすれば、それ自体は非常に素晴らしいことである。しかし色々調べていていくと、それは単に安全管理に対する意識が低かっただけではないのかという疑念もぬぐえない。
平山亨氏や吉川進氏の回顧録を読んでも、東映という会社自体にジャリ番を差別する雰囲気があり、予算やスタジオの使用順位といった面で不遇を味わっていたという。それで現場だけが高い士気を維持していたという話を額面通りに受け取っていいのかどうか。危険な撮影も、監督に怒鳴られるのが怖くて嫌々やっていたけど、年を取れば若いころの苦労も懐かしく、記憶を美化してしゃべっている人もいるだろう。その一方で辛い思い出は辛い思い出のまま、という人もいるに違いなく、そういう人はイベントに出ることもなければインタビューを受ける機会もない。
実態はどうであったかは、簡単に結論が下せるような問題とは思えない。特撮ヒーロー番組に出たことを、誇りに思う人もいれば、思っていない人もいるはずで、それを一方的に誇りに思うのが正しく思わないのが間違っていると決めつけるような風潮には、はっきりと異議を唱えておきたい。
それはそうと、今の番組が昔ほどの迫力がないのは、命がけでやっていないからだ、という意見がある。しかしその迫力とやらが、スタッフや役者の人命に対する軽視ゆえに生み出されたものであるならば、そんなものはもう見たいとは思わない。CGで我慢する。一生障害が残るような大ケガをした人もいるし、あるいは死人だって出ていたのではないか。表沙汰になっていないだけで(別に事件を隠蔽したというのではなく、単にニュースバリューがなくて)。
補論あり
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